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「そうか。さて、身体の調子はどうかな?」
「うん、問題ないよ“団長”」
頷きながら私はゆっくりと手足を動かしてみせた。
それに団長が少し微笑んで頭を撫でてくる。
“触れられている”という漠然とした感覚はあれど、そこに体温は感じない。
そう……【人形】の身体の私が夢など見るはずがないのだ。
あれから、幾年月が過ぎたのか、細かいことは覚えていない。
サーカスの一員に迎えられて、彼のパートナーとして芸を披露したりしてきた。
けれどいつの間にか仲間たちは姿を消し、残ったのは私と彼だけ。
必然的に彼が団長を名乗るようになり、時折アルバイトを雇ったりする以外は新しいメンバーを迎えることはなかった。
「団長、用意ができました」
いや、そうだ。
このピエロだけは、いつからかここで働いていた。
けれど、どうしてだろう?
私には彼がいつからここにいるのか、まるっきり覚えていない。
というか、私は人形で……でもあの私は小さくて……あれ……?
「よし、では開園と行こうか」
その言葉にはっとして顔をあげる。
団長の言葉に、ピエロは無表情でぺこりと少し頭を下げると、こちらを少しも見ずに去っていった。
恐らく、園の外に客寄せに行ったのだろう。
基本的に園内はどこでも歩ける私だが、彼と違って園の外に出ることだけは許されていないから。
その仕事ばかりは私にはすることができない。
「……お客さん来るかな」
「ああ。分かってると思うがA、」
「うん、お客さんが来た時は動けない人形のふりをする、でしょ」
「良い子だ」
微動だにしなければ、精巧に作られた人形だと勘違いしてくれる。
人形として彼に操られているふりをしてパフォーマンスをする以外では、お客さんの前に出ることはない。
……それもいつからだっただろうか?
そもそも…………私はいつから、人形の身体だっただろうか。
思い返そうとするとつきりと頭の奥が痛んだ気がした。
それも気の所為のはずなのに、どこかが段々痛くなってくる気がして、苦しくて。
「“____”……」
無意識で呟いた音は、どこかに届く前に霧散していった。
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しらたま。(プロフ) - るあさん» るあさん!返信が遅くなってしまい申し訳有りません!何かしらで通知を見逃してしまっていたようです(汗) コメ頂きありがとうございます!ntjさん少し特殊なお話でしたが受け入れて頂けてとても嬉しいです^^ 残り数日、お付き合いくだされば幸いです✨️ (4月25日 2時) (レス) id: 5d28ad3807 (このIDを非表示/違反報告)
るあ(プロフ) - 拾われた子とその恩人の話好きなので嬉しい、!特に'それはきっと素敵なこと'が好き!善意から距離取ろうとする主人公と接し方が分からないinrさん可愛すぎました、私もあのご夫婦大好きなのでメインなのも嬉しかったですれ!! (4月17日 17時) (レス) id: cdc395c024 (このIDを非表示/違反報告)
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