▽ ページ29
✼ ✼ ✼
「特に何も決まってないならさ、スマイル。……僕がAちゃん貰ってもいいかな?」
「……………………は?」
目の前の男が何を言っているのか分からなくてぱっと顔を見る。
口元は微笑んでいる。
が、それがふざけているわけではないことぐらい、短くない付き合いで分かってしまった。
ぶるーくは言い聞かせるように再び口を開く。
「だから、僕のお嫁さんに貰いたいの」
「……嫁?Aを?」
「そう言ってんじゃん。一応、スマイルが保護者だしね。彼女に申し込む前にお伺いしないとって」
本気か?と聞こうとしてその目線に口をつむぐ。
その真剣な眼差しを真っ向から受けられなくて、不自然だと分かっていてもふいと視線を反らしてしまった。
「……まだ子供だぞ」
「さっきもう成人するって話したばっかじゃん」
「けど、」
「スマイル」
何か、言い訳じみた言葉をつのろうとすると、ぶるーくの力強い言葉に遮られる。
いつものふわふわとした雰囲気はどこへやら。
じっとこちらを見てくる彼は、確かに同業者であるやり手の魔術師に違いなかった。
「スマイル。分かってるでしょ?彼女はいつまでも子供じゃないんだよ」
「……」
「そしてあっという間にいってしまうんだ。僕たちを置いてね……」
✼ ✼ ✼
昼間、その話をしたぶるーくはまた来ると言ってあっさりと帰っていった。
それには拍子抜けしてしまうほどで。
何だよ、真面目にAに求婚するつもりじゃないのかよ。
そう思いながらも胸の奥がちくちくするのが収まらなかった。
「……A」
夕食の後の片付けをしている彼女に話しかける。
この広い魔法使いの塔には彼女と俺しか住んでいなかった。
……いや、大昔は俺ひとりだった。
だいたいのことは魔法で何とかできたし、食事だって口にできれば味にはこだわらなかった。
だって空腹にはなるが、どうやったって死なないのだから。
ところが彼女と住むようになってからそれらは一転した。
普通の人間が成長するには栄養も必要だというから、慣れないながらも友人たちから教わって料理もした。
それがいつの間にか、彼女がするようになっていって。
あんなにこだわりが無かったのが嘘のように、今では食事の好みまで伝えるようになっていた。
Aは呼びかけに振り返ると小首を傾げた。
「なぁに師匠。何か、口に合わないものでもあった?」
「いや……美味かったよ」
✼ ✼ ✼
106人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しらたま。(プロフ) - るあさん» るあさん!返信が遅くなってしまい申し訳有りません!何かしらで通知を見逃してしまっていたようです(汗) コメ頂きありがとうございます!ntjさん少し特殊なお話でしたが受け入れて頂けてとても嬉しいです^^ 残り数日、お付き合いくだされば幸いです✨️ (4月25日 2時) (レス) id: 5d28ad3807 (このIDを非表示/違反報告)
るあ(プロフ) - 拾われた子とその恩人の話好きなので嬉しい、!特に'それはきっと素敵なこと'が好き!善意から距離取ろうとする主人公と接し方が分からないinrさん可愛すぎました、私もあのご夫婦大好きなのでメインなのも嬉しかったですれ!! (4月17日 17時) (レス) id: cdc395c024 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ